未分類

利益デザインの管理会計論

昨日、管理会計の本を読んでいて、ふとこんなことを思いました。

今回はこの内容を、詳細な説明や実際の事例を用いて記事にします。


記事の内容に入っていく前に、①想定読者と②読後の予想イメージを書いておきます。

想定読者

まず、企業で管理会計業務に従事する、CFO、経営企画、経理、内部監査、コンサルなどの実務家に読んでいただきたいです。これは管理会計は経営学の一部である以上、実際の実務をうまく説明できたり役にたってこそ、良い理論であると言えるからです。

次に、公認会計士試験や簿記検定などで、管理会計を試験科目として勉強したことのある人にも読んでいただければと考えています。試験上の管理会計はどこか捉えどころがなく、点数が伸び悩みやすく、どうしても嫌われ者になりがちです。わかりやすい説明をすることで、そんな管理会計の現状に一石を投じたいのです。

そして第三に、経済学部や経営学部、商学部などビジネス系の大学に所属しており、管理会計に興味がある全ての人にも読んでほしい内容にしました。これは管理会計の知識はどんな人にも役立つと信じているからこそです。

読後の想定イメージ

次にこの記事を読むことでどんな効果が得られるのかを書きます。

第一に、管理会計の各内容が一貫性をもって理解できるようになります。先ほども述べた通り、会計士試験の管理会計はどこか捉えどころがありません。そこを一貫性を持った説明でよりわかりやすくしたいのです。また実務家の方でも、原価管理だけだったり予算管理だけを担当していると、管理会計の全体像が掴みにくいのではないでしょうか。そのような課題にもこたえていけたらと考えています。

第二として、実際の企業で行われている管理会計実務をより多く知ることができるように書きました。。日本企業の管理会計実務は高度に発展しています。そしてそれらを熱心に研究・教育する学者の方もたくさんいらっしゃいます。それらの叡智が世に広まらないままになっているのは社会的な損失ではないでしょうか。

第三に、管理会計を好きになれるように書いたつもりです。。これが一番大事かもしれません。これだけ意気込んで書き始めてはいるものの、当然ですが、管理会計の全てをこの記事で取り扱うことなど到底できません。各人がさらに追加学習する際の道案内になれれば幸いです。

少し熱が入りすぎました。記事を先に進めましょう。

ちなみに、この先の文章は説明も事例もたくさん出てくるので、先にネタバレとしてどのようなテーマを取り扱うかをお見せします。

気合を入れて書いていきます。


利益デザインの3つのルール

まず初めに説明のための概念を導入します。概念と言うと大それたものに聞こえるかもしれませんが、「管理会計を理解するための基礎的な考え方」くらいに思ってもらえれば大丈夫です。

この3つのルールこそがこの記事のエッセンスです。それでは一つずつ丁寧に説明していきます。

ルール① 利益の分配可能性

まずルール①として、利益の分配可能性。これは言い換えると、「利益は誰かに分配されなければならない」ということです。

これは特段珍しい話をしているわけではありません。複式簿記を少しでも勉強したことのある人にとっては当たり前の話のはずです。当期純利益は配当というかたちで株主に分配されます。

また別の見方をすると、利息は債権者に対する分配であるし、給与は従業員に対する分配、材料費や経費などからなる各種費用は取引先への分配であるとも考えられます。企業に関与するすべてのステークホルダー(利害関係者)が何らかの形で利益の分配を受けているのです。

そして、ここからが重要ですが、このようなステークホルダーへの利益の分配には”優先順位”が存在します。

ステークホルダーの優先順位は企業・組織がある程度自由に決められますが、実際にはある程度決まった順番が存在しています。下記の「損益計算書とステークホルダーの関係」で説明してみましょう。

損益計算書は上の図表のように、売上をそれぞれのステークホルダーで分配するように書かれています。

この際にステークホルダーの間には優先順位が存在するのです。この損益計算書の場合で言うと、以下のような優先順位です。

仕入先>従業員等>金融機関等>国・自治体>株主

これは株式会社の基本的な考え方でもあります。つまり、まず売上を仕入先や従業員に支払や給与という形で分配します。もしその時点で売上を分配し尽くしてしまったなら、分配はそこで終わりです。しかし、まだ残っていれば、金融機関や国・自治体に利息や税金を支払います。そこまで全部分配した後にそれでも何か残っていたならば、それは全て株主の分配となるのです。

ここでは、特に次の2つのことを理解していてください。

損益計算書はステークホルダー別の分配を表していると見ることができる。

分配の優先順位は基本的に損益計算書の上が高く、下に行くほど低い。

ルール② 利益の管理可能性

これは一般に管理会計のテキストでは「管理可能性の原則」という用語で示されているものです。テキスト通りの説明だと「権限と責任は一致させる」ということになる。しかし、これだとよくわかりにくいのと、最近の研究で必ずしも現場において「権限と責任が一致」するわけではないことがわかってきました(Simons & Davila, 2020)。

したがって、本記事ではこの管理可能性について「利益は必ず誰かの努力又は責任で生じる」と表現しています。

この「利益の管理可能性」の内容について、先ほどの図表をもとにもう少し詳しく見ていこう。

利益デザインの管理会計 損益計算書とステークホルダーの関係

この損益計算書とステークホルダーの関係を見て理解できたら、次はどうやって当期純利益を増やせるかを考えてみましょう。

売上を増加させることは利益に直結するでしょう(そのほかの費用は変わらないと仮定します)。

ではこれはなぜ生じたのでしょうか。これについては、いくつかのシナリオが考えられるます。

例えば…

・ 製品の販売部門・営業部門が販売数を増加させたから

・ 研究開発が成功し、強力な新製品ができたから

・ 経営者が新規事業にかじ取りをして、それが当たったから

・ その製品を好きな有名人が熱心に宣伝してくれたから

このように売上の増加による利益の伸びは、企業内外のステークホルダーが努力した結果として生じたものがわかるはずです。逆に売上が思うように伸びていないとすれば、これらのステークホルダーのいずれかに原因があることになります。

さらに利益を増やすためには、売上を増加させるだけでなく、費用を削減することでも達成できる。しかしこの場合にも、取引先の努力(売上原価の低減)、従業員の努力(人件費・販管費の低減)などが間違いなくあることを覚えておこう。

そして、ルール①とも関係してくるが、基本的に利益はそれを努力によって生じさせたステークホルダーに分配されるべきものです。例えば経営者の経営能力によって利益が増加した場合には、業績連動型報酬というかたちで分配されます。また、従業員の努力によって企業業績が好転した場合にはボーナスを出すことで利益を分配することがあります。

これは企業会計や管理会計が人間のインセンティブ・システムに基づいて設計されているためだ。やはり努力して成功したら、その結果としての報酬は欲しい。利益が出るほど頑張ったなら、少なくともその一部は分配されるだろうと考えるのは人間の性だとも言える。

ルール③ 因果関係による利益分解

これは最初の二つに比べて「?」と思った人が多いかもしれません。

しかし内容を聞いてしまえば当たり前のことです。むしろ当たり前すぎて会計をわかっている人は普段は意識にありません。

突然ですが、あなたの目の前に「今期の当社の利益額は100万円」とだけ書かれた報告書があることを想像してください。

当然、この報告書だけであなたは満足しないはずです。この利益がどうやって生まれたのかを知りたくて調べるはずでしょう。

しかし、調査した結果をどうまとめるかはあなたの自由です。人によっては「売上高(200万)-費用(100万円)=利益(100万円)」と調べて、その細目を調べるかもしれません。また違う人は「A部署の利益(50万円)+B部署の利益(50万円)=利益(100万円)」と知り、それぞれの部署の利益率や採算を調べるかもしれませんね。他にも従業員ごとの利益額や地域別の利益額など調査の仕方は無限と言ってもいいでしょう。

でも、もし次のような調査をする人がいたら笑いものになるはずです。

「東京都の人口およそ900万 – ニューヨークのおよそ人口800万」

もはや笑いものを通り越して、何をどう考えたのかがわかりません。でも何故わからないのでしょうか。

単位が金額と人数で違うから?いや、先ほど書いたように利益を従業員数で割っても”意味ある数値”は出てくるので、本質的な問題はそこではないようです。では何でしょうか。

これが笑いものになる理由は因果関係がないからです。東京都の人口とニューヨークの人口が原因となるような利益を想像することは基本的には難しいでしょう。(無理やり考え出すならば、東京都の全員が顧客で一人一人に1円ずつの売上があり、また費用はニューヨークで発生し人口一人あたり1円発生する……、かなり非現実的ですね。)

利益は因果関係に基づいて分解されなければならない。これがルール③因果関係による利益分解です。そして逆に言えば、因果関係がある(ように見える)ならば、利益をどんなふうに分解しても、それは基本的に企業の自由なのです。「売上と費用」に分解しようが「A部署とB部署」に分解しようが自由なのです。

さらに言えば、なぜ利益は因果関係に基づいて分解されなければならないのでしょうか。これは管理という行為の本質と関係があると考えています。

また身近なケースを考えてみます。とある会社での出世レースです。

AさんとBさんは今の会社での給料を上げたいと思っています。そこで周りの同僚や上司に給料についてヒアリングを実施しました(実際にはやらないでくださいね)。

そこでAさんは一つの発見をしました。どうやら有給取得率が高いほど、給料が上がるようです。そこでAさんは有給を全部使い切って、休日はしっかり遊び休みました。しかし上司からの評価は良くなりませんでした。昇進はできず給料はそれほど上がらない結果となりました。

一方Bさんは違う発見をしました。どうやら資格取得や英語試験の点数が高いほど、給料が高いようです。そこでBさんは定時には退社し、その後の時間を自宅で学習することにあてました。資格は無事取得でき、上司からの評価も上々です。そろそろ昇進も見えつつあるようです。

AさんとBさんはどこで違ったのでしょうか。決定的だったのは異なる発見をしてしまったことでしょう。Aさんは給料という結果に対して有給取得率という原因を見つけ出しました。一方Bさんは給料という結果に対して資格の取得など自己研鑽という原因を見出しました。どちらのほうがより”正しい因果関係”を見つけ出せていたのかは、結果を見れば明らかです。

このように、結果に対する”正しい”原因を見つけ出せてこそ、それに対する打ち手が明らかになり、管理が可能となるのです。

利益デザインの3つのルール

さて、ここまでで利益デザインの3つのルールを全て紹介しました。改めて確認してみましょう。

利益デザインの管理会計 利益デザインの3つのルール

まずは利益の分配可能性。これは「利益は必ず誰かに分配されなければならない」ということでしたね。また重要なポイントとして、①損益計算書がこのステークホルダーごとの利益分配を表していること、②利益分配の優先順位は基本的に損益計算書の上部ほど高く、下部ほど低いこと、この2点を示しました。

つぎに利益の管理可能性。これは「利益は必ず誰かの責任・努力によって生じる」ということでした。また関連する重要なポイントとして、利益はそれを生じさせるべく努力した企業内外のステークホルダーに分配されるべき、という考え方にも触れましたね。

そして因果関係による利益分解。これは「利益は因果関係によって分解されなければならない」というものです。そして大事なことは「因果関係があるように見えさえすれば、どんなふうにでも利益は分解できる」ということでした。

それぞれのルールはざっくりとその意味がわかっていれば問題ありません。これから出てくる管理会計実務の説明では、それぞれのルールがどのように使われているかを書いていきます。ここではさらに、それぞれのルールは何かを制限する(分配、管理、因果関係など)ものであるが、制限される事柄以外のことは比較的自由にできる、ということを覚えておいてください。


それでは利益デザインの3つのルールもわかったし、今度はこのルールを使って実際の管理会計実務を説明していきます。

説明に際しては次のように心がけます。

理解しやすい簡単なケースから始めること

各ケースに利益デザインの3ルールに即して説明を加えること

おそらく、企業で管理会計に何らかの形でかかわったことのある人や簿記2級程度をもっている人であれば難なく読めるはずだ(そういう風に書いたつもりです)。また管理会計に精通している実務家の方や研究者の方にとっても、上の3つのデザインルールで説明しているので、標準的なテキストとは一味変わった味方を提示できるのではないかと思っています。

それでは実際の企業管理会計実務を見ていきましょう。説明に当たっては、便宜的に①基礎編と②応用編に分けました。


【基礎編】

まずは基礎編です。多くの管理会計のテキストで扱われている内容を本記事でも取り扱います。

直接原価計算で利益を描いてみる

直接原価計算という手法でつくられた損益計算書をみてましょう。しかしまずは直接原価計算とは何かを簡単に理解する必要がありますね。

直接原価計算とは、原価を操業度によって変動費(直接費)固定費(間接費)とに区分し、利益を計算する方法です。(変動費と直接費、固定費と間接費は厳密には完全に一致しないものの、ここでは説明のためにこのように表記しています)

ここで新しく3つの用語が出てきました。それぞれの意味についてわかりやすく抑えておきます。

まず、操業度。定義としては「生産設備を一定とした場合におけるその利用度」[原価計算基準 八-(四)]となっています。もちろんこの定義だけでは「?」となるはずです。

具体例を挙げます。工場における操業度といった場合には、例えば製品の製造量、(従業員の)総労働時間などです。これらはどれだけ工場を利用したかの指標といえるわけです。

次に変動費と固定費を説明しますが、この2つについては言葉で説明するよりも次のグラフを見てもらったほうが早いでしょう。

利益デザインの管理会計 変動費と固定費

上のグラフは横軸に操業度(生産量や労働時間)、縦軸に原価(金額)をとり両者の関係性を見るものです。では操業度と原価の間にはどのような関係があるでしょうか。

これは原価の種類によって異なるでしょう。例えばマクドナルドでポテトを製造する場合で考えてみます。操業度としてポテトの生産量を取った場合を想定してみましょう。

ポテトであるからジャガイモは必須ですね。おそらくポテトの生産量とジャガイモの消費量は比例するはずです。またジャガイモだけあっても店舗でポテトは出てきません。ジャガイモをポテトに加工する人の労働時間もかかるはずです。

一方で店舗でポテトを販売する店員が労働時間を増やしたとして、ポテトの”製造量”は変わるでしょうか。販売する店員が頑張ったとして、販売量は増えるかもしれないが、製造量は変わらないでしょう。

このように考えてみると、操業度と原価の関係にはいくつか種類がありそうです。

利益デザインの管理会計 変動費と固定費の種類

原価計算基準 八-(四)によれば、操業度と原価の関係について、上記の4つを想定しています

まず①操業度と原価が比例的に発生する場合、次に②操業度に全く関係なく原価が発生する場合、また③や④のように①・②の中間的な性質をもつものも想定されています。ここでは、①を変動費、②を固定費ということだけ覚えておいてください。

ここまでで直接原価計算の前提知識を読んでもらいました。正直読んでいて小難しい話もあり、飽きた人もいるかもしれません。なぜこのようなことをするのでしょうか。これは利益デザインのルール③ 因果関係による利益分解 で説明することができます。

繰り返すが、

直接原価計算とは、原価を操業度によって変動費(直接費)固定費(間接費)とに区分し、利益を計算する方法でした。つまり、原価と操業度の関係がどのようになっているかを知る・調べることなのです。

特定の原価の発生という結果に対して、どのような操業度の原因が考えられるか、その原因は原価の発生にどれほどの影響を及ぼすのかを調べることが直接原価計算をする目的なのです。

またこの際に原価という結果は金額で表示されていますが、操業度は生産量が労働時間といった物量で表示されていることにも注目しましょう。これによって、金額という結果を物量という原因で操作(≒管理)できるようになるのです。

例えば、この操業度(Volume)と原価(Cost)の関係から利益(Profit)を予測計算する手法については、CVP分析と呼ばれ、多くの管理会計のテキストで説明されています。また意思決定会計などでも変動費・固定費情報は用いられます。(なお、それぞれの説明は本記事では割愛します。)

さて、ここまでくるとやっと直接原価計算を違う見方で捉えられるかもしれませんね。つまり、直接原価計算とは、操業度を用いた因果関係に基づく原価(利益)分解なのです。ルール③の実践だといえるでしょう。

標準原価管理

直接原価計算は利益デザインのルール③ 因果関係による利益分解の実践例でした。つまり原価を操業度という原因で説明することができる方法でしたね。

次にご紹介する標準原価管理という手法は、ルール③だけでなく、さらに利益デザインのルール②利益の管理可能性の実践例でもあります。ものすごく簡単な言い方をすると、標準原価管理はノルマをどれだけ達成したか(できなかったか)、その努力と責任を可視化する方法なのです。

まずここでは設例をおいて標準原価管理を考えてみましょう。

A会社は製造部門と調達部門のみがある特殊な会社です。というのはほぼ製品は市場で独占状態にあり、製品を作れば全て市場で売れると考えてください。

製造部門は当然ですが、製品の製造量に責任があります。製品を効率よくたくさん作れれば社長に褒められます。

一方で調達部門は、製品の原料をどれだけ安く大量に仕入れられるかが大事です。供給業者とうまく交渉しやすく仕入れてくることが彼らの責任です。

社長はそれぞれの部署に次のようなノルマを課すことにしました。

製造部門製品:100個以上製造すること
調達部門素材:一個当たり1,000円以内で仕入れること

ふたを開けてみると、次のような結果が出てきました。

部署ノルマ結果
製造部門製品100個以上製品120個
調達部門素材@1,000円以内素材@1,100円

製造部門はノルマを超えてたくさん作ることができました。一方調達部門は素材を高く仕入れてしまいました。製造部門は努力して成果を出しましたが、調達部門は失敗した責任があると言えます。

そしてここからが重要です。製品の製造量と素材はそれぞれ個数と金額という形で情報がわかっているので、利益に与えた影響を金額的に測定することができます。それぞれの部署がどれだけ利益に対して貢献したのかが金額的にわかるのです。

では実際に計算してみましょう。下の図を見てください。

まず右上の金額を見てください。これは実際に使った素材の数とその実際価格を掛け合わせた金額(132,000円)です。この金額が会社に実際にかかったコストとなります。

次に左下の長方形を見てみましょう。ここは当初想定していた原価の金額を表しています。当初のノルマでは素材を100個、1000円で仕入れることを想定していましたから、かかる原価は100,000円と想定していましたね。

しかし実際には先ほど示した通り、原価は132,000円で32,000円超過してしましました。これには①数量を多く作ってしまったという原因と②かかった価格が高かったという二つの原因があります。それぞれは図において数量差異と価格差異として示されています。数量は製造部門に責任があり、価格は調達部門の責任となるのです。

この設例で用いたこの図表は特に名前がありませんが、さしあたりMECEチャートと読んでおきましょう。MECEとはMutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの略で、「モレなく、ダブりなく」という意味です。確かに上の図表をみてみると、価格と数量の金額的影響がモレなく、ダブりなく可視化されていますね。

(なお、本設例では簡略化のため、原価側のMECEチャートのみを示しています。本来はここに販売価格を組み合わせたMECEチャートもあり、そちらのほうが利益責任という観点からはふさわしいですが、ここでは割愛します)

このようにして、ノルマを設定し、実際の結果と比較して、その努力・責任の所在を明らかにするのが標準原価管理です。確かにルール②利益の管理可能性に基づいて、「利益は必ず誰かの責任・努力によって生じる」ことが示されていますね。

ちなみに今回の設例で出てきた製造部門や調達部門のように、原価・利益情報の集計単位となるような部署・組織を原価センター・利益センターといったりします。管理会計のテキストや実際の実務ではもっと部署もたくさんあり、ノルマももっと精緻につくられているため、このような簡単にはいきませんが、基本はこれと同じです。


事業部制組織の業績評価

ここまでで、直接原価計算と標準原価計算を見てきました。どちらの設例でも共通していたことは極めて単純な会社を想定していたことです。直接原価計算では、単一の工場などでの操業度を想定していましたし、標準原価計算では製造部署と調達部署という区切りこそあれど、基本的には一つの製品を製造する単純な会社を想定していました。

しかし、現代の企業はもっと複雑でもっと巨大です。

上場企業の多くは複数の製品を販売しています。また会社によっては海外展開している会社も多いでしょう。全く異なるタイプの製品を販売している会社やサービスを提供している会社もあります。

このように同じ会社で異なる製品・サービス・事業展開をする際によく利用されてきた経営手法が事業部制組織という組織形態での経営です。これは松下電機産業(現パナソニック)が編み出した経営手法であると言われています。ここでは2020年4月現在のパナソニックの組織図を見ることで、現在のパナソニックがどのように事業部分けをしているのかを見てもらいましょう。

組織図
https://is-c.panasonic.co.jp/jp/company/organization/

この組織図をみれば、パナソニックがどれだけ大きな会社で、どれだけの多くの事業部を抱えているかが一目瞭然ですね。

このような事業部制組織を導入している会社では、複数の事業部制組織をまたいで業績を評価するための管理会計が求められます。ここでは、そのような事業部制組織の業績評価に関する管理会計を簡単に見てみましょう。

ここでは二つの事業部があるような会社を考えます。

それぞれの事業部長は各々の事業部の利益を上げるために必死です。というのは、それぞれの事業部の利益が全社的な利益にどれだけ貢献したかによって自分のボーナスが変わるからです。(ルール① 利益の配分可能性ですね)

一方、会社の社長は二人の事業部長がしっかり会社の利益に貢献するように利益をデザインしたいです。さぼったり、会社の損失になるようなことはしてほしくありません。どのような利益をデザインすればいいでしょうか。

社長は利益をデザインするにあたって、事業部別損益計算書を作ることにしました。この事業部別損益計算書は次のようなことを気を付けて作っています。

事業部で発生した売上・費用はそれぞれの事業部に集計する(ルール② 利益の管理可能性)

②事業部で管理できないような費用(例えば災害による損失など)については、それを区分したうえで合理的に負担させる

③会社には事業部の従業員だけでなく、それを管理する本社の従業員のコストも発生するので、その費用も売り上げが発生する事業部に負担させる(ルール① 利益の配分可能性)

事業部を2つ束ねる会社の社長だけあって、かなり聡明な考えの持ち主のようです。上記のようなコンセプトで作られた事業部別損益計算書が次のようなものになります。

解説をします。

まず事業部で発生した売上・かかった費用を集計するために、事業部別の売上高から製品別にかかった変動費、また事業部で管理可能な個別固定費を引きます。こうして算定されたものが管理可能利益と呼ばれる、事業部長が自分の責任で本当に管理できる利益です。

次に管理不能なものであっても、例えば工場での災害など、事業部で発生したコストであれば管理不能個別固定費として各事業部の損益計算書に集計します。こうして算定されたものが、事業部利益です。事業部長の努力だけでなく、環境などの”運”の要素も含んだ事業部自体の利益と言えるでしょう。

そして事業部の従業員だけでなく、本社部門や研究開発などの従業員のコストも負担させます。それが本社費・共通費です。これを事業部利益から指しい引いたものが純利益です。この純利益についてすべての事業部の純利益を合算したものが会社の当期純利益となります。

ここまでで事業部別組織における損益計算書を紹介してきました。大事なことは損益計算書のフォーマットを通じて、社長が会社内の組織の利益をデザインできるということです。これは大事な視点で、続く応用編でも出てくるので覚えておいてください。

デュポン・チャート

基礎編の最後はデュポン・チャートと呼ばれる図表をご紹介します。こちらはルール③因果関係による利益分解を突き詰めていったものといえます。まずは下記の図表をご覧ください。

これは投資利益率(Return on Investment:ROI)という指標を、それの構成要素に分解していってつくられています。ROIは売上高利益率(利益/売上高)と資本回転率(売上高/総資本)の積として表現され、またその構成要素として様々な財務情報に分解されていきます。

これはルール③因果関係による利益分解 に極めて近いでしょう。(厳密にはそれぞれは構成要素ですが。)

ここでROIを改善しようと思った場合にはどうすればいいか考えてみましょう。まず売上高利益率と資本回転率のどちらの指標が低いのかを確認します。ここで例えば売上高利益率が低かったとしましょう。この場合にはさらに売上高利益率が低くなってしまっている原因は、売上高が少ないからなのか、それとも費用が多すぎるのかをみていきます。例えば費用項目には図表で示した4種類のようなものがあり、これらの項目で異常に大きな数値となってしまっているものは何か、その原因と改善策を考えていくのです。

このように因果関係によって利益を分解し、その各原因を改善することで結果としての指標を改善していくツールがデュポン・チャートなのです。

【応用編】

さあここからは応用編です。実際の上場企業などのケースもたくさん出てきますし、複雑なものも多いです。しかしその分だけ学習する甲斐があります。それぞれのケースのより詳細な説明は別記事で記載する場合もありますが、その概要については当記事で触れます。頑張っていきましょう。

アメーバ経営 時間当たり採算

まず応用編では、アメーバ経営という手法で用いられる、時間当たり採算という種類の利益について説明します。

アメーバ経営とは、その経営手法のコンサルティングを手掛ける京セラ コミュニケーションシステム株式会社によると、「京セラ名誉会長 稲盛和夫が会社を経営していく中で、実体験から編み出した経営手法」だとされています。

このアメーバ経営には数多の重要なポイントがありますが、今回の記事ではその大枠を把握することに留めます。

ここで突然ですが、本質的な問いを考えてみます。

つまり、”経営の原理原則”とは何でしょうか。

人によって答えは違うはずです。経営者の中でも見解が分かれるでしょうし、経営学者によっても当然違うでしょう。簡単なフレーズで表せるかどうかも定かではありません。

しかし、アメーバ経営を編み出した稲盛和夫氏は、経営の原理原則とは「売上を最大に、経費を最小にする」(稲盛,2014)ことだと考えました。そしてその考えを組織の末端まで行き渡るように編み出されたのがアメーバ経営でした。

より具体的に見ていきましょう。まず、アメーバ経営では、組織を事業部、部署という単位だけでなく、それよりも細かいアメーバという組織にまで分割します。

それぞれのアメーバは極めて小さい人数の組織単位です。しかしそれぞれは独立しており、会社の中で自由に部品を買ってきたり、自分たちの製品を違うアメーバに売ったりすることができます。これは「社内売買」と呼ばれる取引です。

この社内売買が活発に行われることで経営の基本原理である「売上を最大に、経費を最小に」というコンセプトを実現しているのです。どういうことか図表を用いて見ていきましょう。

社内売買は組織の対象単位であるアメーバを独立した会社のように見立て、そのそれぞれの間で部品やサービスなどの売買をできるようにする仕組みです。それぞれのアメーバは自身のアメーバでつくっている製品に必要な材料などを最小の経費で買ってきます。そして、それを最大の価格で買ってくれるアメーバへと売るのです。最終的には営業部門から外部組織へと販売されます。

またこの社内売買で用いられた各製品の社内での販売価格は、より一般的には振替価格と呼ばれたりします。会社内のある組織から別の組織に部品・商品を振り替えるときに用いられる価格だから振替価格ですね。

そして、アメーバの経営指標は上のような「時間当たり」で評価されます。利益を総労働時間で割ることで生産性を評価するのです。また従業員はこの「時間当たり」をあげるべく、様々な改善策を考えては実行します。これがアメーバ経営における時間当たり採算と呼ばれる経営指標が果たす役割です。

(アメーバ経営に関しては、今回ご紹介したのは実務・研究のほんの一部にすぎません。フィロソフィー教育や他業種への展開の際の注意点、その他組織的取り組みなど他にも重要な点を挙げればきりがありませんが、説明の都合上、本記事では割愛させていただきます)

今回ご紹介したアメーバ経営については、実務面だけでなく理論的研究についても多くの書籍が出版されています。もしご興味を持った方がいらっしゃれば、以下のような書籍はオススメです。

花王のP&A

花王グループは「化粧品」「スキンケア・ヘルスケア」「ヒューマンヘルスケア」「ファブリック&ホームケア」といった一般消費者向け事業と「ケミカル」事業といった産業界のニーズにこたえる事業を運営している日本の上場企業です。ここには書ききれないほどのあまりに多いヒット商品があります。

そんな多数のヒット商品がある花王には、マーケティングに対して有効な管理会計上の仕組みがあります。それは内部管理用の損益計算書でP&A(Profit & Advertisement)という数値で現れています。詳細に見ていきましょう。

P&A(Profit & Advertisement) とは名前の通り、営業利益にマーケティング費用を足し合わせたものを指します。マーケティング費用には宣伝費や販促費、市場調査費といった項目が含まれます。

この利益額を見て意思決定をするのは、ブランドマネジャーと呼ばれる管理者層です。ブランドマネジャーは名前の通り、特定のブランドに対して責任を持ちます。

ブランドマネジャーはP&Aと営業利益を比べて、P&Aが多い場合にはより多くの宣伝や市場調査を行ったり、逆に営業利益が少ない場合には宣伝にかけているコストを削ったりするわけです。

ブランドマネジャーにマーケティングに関する権限が一部認められていることを考えると、このP&Aはルール① 利益の分配可能性の実践とも言えます。P&Aという形でブランド・マネジャーが自由に使える持分を可視化しているのです。

花王の管理会計についてはP&A以外にも多くの研究がなされています。花王の管理会計実務をより詳しく知るための書籍としてはこちらがオススメです。

村田製作所のマトリックス経営

マトリックス経営とは村田製作所で実施されていたマトリックス組織を基調として経営方法のことです。まずはマトリックス組織についてご説明します。

マトリックス組織とは上図のように一つの組織単位に二つ以上の指揮命令系統が存在する経営組織のことをさします。この組織形態は事業部制組織のさらに発展した形として紹介されることが多く、組織論のテキストなどではかなり応用的な内容として扱われがちです。

しかし以外にもその歴史は古く、マトリックス組織の起源はアメリカ・NASAのアポロ計画で採用されたプロジェクト・マネジャー制に原点があるとされています(矢野他,2002)。

村田製作所はこのマトリックス組織を導入していた歴史があります。

出典:泉谷(2002)p.33

詳しくは後ほどご紹介する書籍をご覧いただくとして、ここではこのマトリックス組織がルール② 利益の管理可能性の観点から特殊な組織であることを指摘してみます。

まず会社がマトリックス組織を導入するメリットは主に以下の4つがあると言われています。

①効率性と柔軟性の同時達成

②複雑な問題に対して質の高い革新的な解決を促進できること

③トップ・マネジメントが全社戦略に専念できること

④組織メンバーの人格的発展の機会が与えられること

岸田(2009)p.66より引用

一方で伝統的な管理論からはいくつかの疑問符も提示されています。例えば管理会計が依拠してきた伝統的な管理可能性の原則でいえば、「権限と責任は一致させるべき」でした。指揮命令系統が二つあつマトリックス組織は下部のマネジャーに権限よりも多くの報告責任が課されるともいえるのです。

しかし管理会計の理論も発展してきました。最近では、マトリックス組織に特有の課題を適切にマネジメントすることで、そのメリットを最大限に生かす方法が提唱されています(Simons,2005)。詳細は別記事でまた触れられればと考えていますが、これほどマトリックス組織は経営学上、論点のある組織形態だと言えるでしょう。

村田製作所のマトリックス経営についてはこちらの書籍が詳しいです。

最後に

本記事では、利益デザインの3ルールという説明概念を用いて、複数の管理会計実務について説明してきました。少しでも皆様の管理会計への理解の足しになれていれば、筆者としてこれ以上の喜びはありません。もし少しでも興味を持った話題があれば下記参考文献をお読みいただくか、私までご連絡いただけると嬉しいです。

なお本記事は今後何度かの追加・修正を見込んでおります。当記事で扱えなかったテーマ(バランスト・スコアカード、脱予算経営、WWVAS、原価企画、ABCなどなど)も多く、この記事に書き足す形か、別記事として書いていけたらなと思っています。

また本記事は本サイトOrgThinkの記念すべき初回の投稿でもあります。今後も管理会計やその他の経営学・会計学などに関する投稿をしていく予定ですので、引き続きご愛読いただけますと幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献

Robert Simons(2000) Levers of Organization Design, Harvard Business Schoool(谷武幸他訳(2008)『戦略実現の組織デザイン』中央経済社。)

Robert Simons, Tony Davila(2020)How Top Managers Use the Entrepreneurial Gap to Drive Strategic Change, European Accounting Review.

泉谷裕(2002)「『利益』が見えれば会社が見える ムラタ流『情報化マトリックス経営』のすべて」日本経済新聞社。

稲盛和夫(2014)「アメーバ経営 ひとりひとりの社員が主役」日経ビジネス人文庫.

桑田耕太郎・田尾雅夫(2018)「組織論[補訂版]」有斐閣。

櫻井通晴(2015)「管理会計[第6版]」同文舘出版。

森田直之(2014)「全員で稼ぐ組織 JALを再生させた『アメーバ経営』の教科書」日経BP社。

矢野正晴・柴山盛生・孫媛・西澤正己・福田光宏(2002)「創造性の概念と理論」『NII Technical Report』国立情報学研究所。

吉田栄介(2020)「花王の経理パーソンになる」中央経済社。

京セラコミュニケーションシステム株式会社『アメーバ経営とは』https://www.kccs.co.jp/consulting/service/amoeba/about/ 2020年8月12日最終閲覧。

パナソニックインフォメーションシステムズ株式会社『組織図』https://is-c.panasonic.co.jp/jp/company/organization/ 2020年8月19日最終閲覧。

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。